耳鳴りのように響き渡る蝉の声に眉根を寄せ、侘助は陽射しの照りつける道を抜けた。揺れる紺碧と白の波千鳥。深紅に染め抜かれた「氷」の一文字。眼前に聳える幟に彼らは白旗を振った。
 軒下に入るとひんやりとする。ちりん。涼やかな鈴の音に吐息した。
 店員が取っ手を回せば光を散らすように雪が降る。足元では犬に似た巨大な毛玉こと相棒が緩慢に尾を振り始めた。

 月なきみ空に きらめく光
 嗚呼その星影 希望のすがた
 人智は果なし 無窮の遠に
 いざ其の星影 きわめも行かん

 これを口遊む方が素数を数えるよりも心が凪ぐ。
 侘助は降り積もる白い山に溶け込むように目を伏せた。
――砂糖蜜のかかったみぞれの顕現まであと僅か。




カウントダウン





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