ボーナストラック掌編#1 どうぞお幸せに
晩餐会の準備にはあと少し時間がかかるらしい。娘に知らせに行くと、婿殿が様子を見に来てくれていた。
ほんの少し何か召し上がってくださいな、と声を掛け、二人にレモン水を用意する。
「こちらに殿下がいらっしゃるまで、この子ったら嬉しそうに確認していたのですよ。熱心に。何度も、何度も」
こてん。
花婿と花嫁がグラスを手にしたまま首を傾げた。
「左手の薬指」
ぴゃっ。
娘が恥ずかしげに顔を伏せた。グラスを持つ細い左薬指に銀色が描くのは、花婿と花嫁の永遠のあかしだ。
「結婚しよう」
「しましたよ」
青空に似た瞳を甘やかに和らげて娘に囁く花婿。頬も耳も朱く染め、上目遣いに囁き返す娘。
どこまでもまばゆく幸福な光景に瞳を眇め、花嫁の母親は口元をほころばせた。