「おにーさん、おにーさん!」
 背後から呼びかけられ、振り返る。

 ちょうど昼を回ったばかりのセレスト大聖堂前を、柔らかな風がゆったりと通る。
 大聖堂の観光客の流れに逆らうように歩いていたのは、中心街へ赴くところだったからである。いつもは大聖堂内の食堂で済ませるのだが、こんな穏やかな天候の日は外で食べたくもなる。

 砂のような金髪に、冷たさを感じさせない緑の瞳の青年である。
「俺、ですか?」
 彼は自分の肩越しに、後方を見やる。あごひげが目を引く男性がこちらに近寄ってきた。
「そうそう、おにーさんのことだよ。大聖堂の人だよね?」
「そうですけど。何か?」
 レオンは立ち止まって相手がこちらに来るのを待ち、聞き返した。
 眉尻を下げ、困ったような笑みを相手は浮かべている。
「いやー、小包を配達しに来たんだけど、ちょうどラッシュにぶつかっちゃってね……」
 相手の視線の先をレオンも見やる。
 大聖堂内へと続く正面扉口前が、いったいどこから溢れ出てきたのだろうと思うほどの人波でごった返していた。赤や青、緑など色とりどりの旗を持った人たちが、必死で点呼を取っている。どうやら団体の見学が重なったようだ。

「悪いんだけど、これ、渡しておいてくれないかな?」
 男性はすまなそうに告げ、小包をこちらに差し出してきた。
「いいですよ」
 二つ返事で引き受けると、相手は安堵のため息を吐いた。
 すぐに口元をほころばせて小包をこちらに差し出してくる。
「ありがとさん。助かるよ。マリーベルさんに渡してくれ」
「わかりました。マリーベルさんに、ですね」
 レオンも受けとりながら復唱する。
 男性はそれに満足げにうなずいてもう一度、ありがとう、と言った。
 レオンも苦笑し、軽く会釈する。
 相手は人好きのする笑みを浮かべたまま、足早に立ち去って行った。

 手にした小包を見下ろす――思っていたよりは軽い。
 そのまま方向転換し、レオンも自身を人の流れに投じた。セレスト大聖堂の方へと足を戻したのである。
 が。
 歩みを進めてから気がついた。
 それは、とてもささいなことだった。が、とても重大なことでもあった。
 ぴたり、と動きを止めて眉を寄せる。

「……マリーベルさんって誰だ?」

 彼の呟きは、大聖堂前の空気をわずかに震わせた。空しく震わせただけだった。
 レオンは、しばし虚空を見上げた。
 その場に立ちつくす彼に、さざめく観光客が迷惑そうな視線を痛いほど投げてくる。彼らはこれまた迷惑そうにレオンを避け、どんどん奥へと流れて行く。

 そのままレオンはげんなりと息を吐き出した。
 風が、彼を撫でた……

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手 探 り の フ ー ガ 1