心頭滅却。水もまた涼し。清めた手をハンカチで拭き取る。
鏡に映るのは、己だ。決意の炎を瞳に燃やした少女がそこにはいる。指先が震えたまま、ひとつひとつ、最終点呼をとる。ニキビなし。顔色――まあよし。少々白いが、許容範囲だ。緊張していることは否めない。小刻みに震えているのも誤差の範囲だ。いつものことなのでよし。寝癖なし。跳ねもなし。襟よし。ネクタイよし。プリーツよし。
もう一度深く呼吸し、本日の大いなる一歩を踏み出す。右手と右足が同時に出て、左手と左足も追いかけるようにカクカク続いたが、問題ない。毎朝そうなるのだから、もはや朝のルーティンにして様式美(?)というものだ。
一年C組。教室のプレートを見上げ、深く深く呼吸する。繰り返すこと七度。
「よし。いきます……!」
自分で自分に精いっぱいのエールを送る。そして、震える指先を、まっすぐと引手に伸ばした。今日一日分の勇気をかき集めて席に向かう。一歩進むごとに心臓の鼓動が激しく音を立てる。どきどき。どくどく。どっどっどっどっ!
朝の光が教室を満たしている。やわらかな春の陽光は、廊下から二列目に位置する少女の机にも右隣のそのひとの肩と頬にも届いている。
そのひとは、もう席に着いていた。眠たげな様子もなく、小テストに備えて英単語の確認をしている。真剣な横顔。切れ長の瞳。今日もまぶしい。
がんばれわたし!
心の底から自分を励まし、呼吸を整える。繰り返すこと七回。
「おはよう。うたがわくん」
声が、震えた。おまけにひどく小さかった。情けない。
けれども、そのひとは小声に気を悪くすることもなければ、緊張をからかったり聞き咎めたりすることもなかった。ただいつものように笑みを返してくれた。そっと。ふわ、と。
「おはよう。今日の小テストもお互いがんばろうな」
やわらかに顔をほころばせるそのひとに、頬が熱くなる。胸がいっぱいになったまま、大きく首を縦に動かした。予鈴が鳴るまであと十六分。永遠にも一瞬にも思える始業前の時間が、今日も幕を開けた――
鏡に映るのは、己だ。決意の炎を瞳に燃やした少女がそこにはいる。指先が震えたまま、ひとつひとつ、最終点呼をとる。ニキビなし。顔色――まあよし。少々白いが、許容範囲だ。緊張していることは否めない。小刻みに震えているのも誤差の範囲だ。いつものことなのでよし。寝癖なし。跳ねもなし。襟よし。ネクタイよし。プリーツよし。
もう一度深く呼吸し、本日の大いなる一歩を踏み出す。右手と右足が同時に出て、左手と左足も追いかけるようにカクカク続いたが、問題ない。毎朝そうなるのだから、もはや朝のルーティンにして様式美(?)というものだ。
一年C組。教室のプレートを見上げ、深く深く呼吸する。繰り返すこと七度。
「よし。いきます……!」
自分で自分に精いっぱいのエールを送る。そして、震える指先を、まっすぐと引手に伸ばした。今日一日分の勇気をかき集めて席に向かう。一歩進むごとに心臓の鼓動が激しく音を立てる。どきどき。どくどく。どっどっどっどっ!
朝の光が教室を満たしている。やわらかな春の陽光は、廊下から二列目に位置する少女の机にも右隣のそのひとの肩と頬にも届いている。
そのひとは、もう席に着いていた。眠たげな様子もなく、小テストに備えて英単語の確認をしている。真剣な横顔。切れ長の瞳。今日もまぶしい。
がんばれわたし!
心の底から自分を励まし、呼吸を整える。繰り返すこと七回。
「おはよう。うたがわくん」
声が、震えた。おまけにひどく小さかった。情けない。
けれども、そのひとは小声に気を悪くすることもなければ、緊張をからかったり聞き咎めたりすることもなかった。ただいつものように笑みを返してくれた。そっと。ふわ、と。
「おはよう。今日の小テストもお互いがんばろうな」
やわらかに顔をほころばせるそのひとに、頬が熱くなる。胸がいっぱいになったまま、大きく首を縦に動かした。予鈴が鳴るまであと十六分。永遠にも一瞬にも思える始業前の時間が、今日も幕を開けた――

