第6話 状況整理
昼下がり――と言っても、ずいぶんと下がっている時刻である。正午はだいぶ前に過ぎ、夕飯までにはまだ間がある。そんな時間帯である。
ジャガード村のほとり。うっそうと無駄に育った木々。ひとけもなく、あまり日も当たらない。
そんな所に遺跡――交易所跡地はあった。
二人は並んでじっとその柱を見つめていた。
「ここか?」
「そうです」
隣に立つ青年をまっすぐと見つめて――サティはうなずいた。
亜麻色の髪、左右異なる色――蒼と琥珀――の瞳の少女である。
薄い青色の簡単なドレスの上に、白いケープを丁寧に着込み、銀色のブローチで留めている。ブローチには被っている青い小さな帽子と同じ模様が刻まれている。聖都ファティマのセレスト大聖堂の紋章である。
ふっと笑うと彼女は続けた。
「盗みを働く人間の目的がわかれば答えは簡単です」
少女――サティは、一人でまたうなずくと、腕を組んで呟いた。
「そもそも、何故盗みを働くのか」
わかりますか、とサティは一緒にいる青年を見上げた。
「まあ、金に困っているからだろうな」
彼――レオン・カーディナライトはそう答えて彼女を見下ろした。
砂のような金髪の青年である。バランスよく筋肉のついたスリムな体躯に膝下のマント姿。腰に吊った剣帯の金具――が剣術の心得のある人間だと静かに語っている。
目つきは鋭いが、あまり冷たさは感じられない緑色の瞳。
うんうん、とサティはうなずいた。腕組みしたままで同意する。
「そのとおりです。では、金に困って盗みを働いてその後どうするか」
わかりますか、とサティは再びレオンに視線を投げた。
今回も答えはすぐに返ってきた。
「そりゃ売っ払って金にするんだろ」
「そーです! 今日の君は何だかサエてますねー!」
「……けんかなら買うぞ」
親指を立ててやると、レオンはこちらに――彼の隣に立っているサティに――冷たい視線を投げてきた。とりあえず無視しておくと、彼は嘆息混じりに呟いた。
「で、それがどうしたんだ」
「売りさばくとしても、この辺りではさばけませんよね?」
「まあ、そうだろうな。この辺で盗んだモノだし」
頭を掻いて同意するレオン。
「それなら、どこで売りますか?」
声のトーンを少し落として、サティが首をかしげる。
「足のつかない所だろ」
「そうですそこなんですよ!」
ばっと顔を上げ、サティは拳を握りしめた。
「仮にもお金に困っているわけですから、そう頻繁に遠距離を行き来することはないですよね」
「そうだな」
レオンも同意してうなずきを返してきた。
事件はファティマやジャガード村を含めた近辺で起こっている。盗品を足のつかない所で売るとなると、乗合馬車を利用する線が濃い。「足のつかない所」とは、同時に徒歩で行きづらいということをも意味するのだ。当然先立つものが必要である。また、徒歩を選ぶとしても、何事にも金がかかるこのご時世だ。食費やら何やかんやで金は入り用なのだ。
サティはびしっと腕組みをした。
「ちまちまそんなこと続けてたらいくらも儲けになりませんよ」
「じゃあ、まとめてやるってことか」
ふむ、としばし考え込んでからレオンが口を開く。
「でも、それってリスクが大きくないか?」
この辺の人間ではない者の犯行ということはわかっている。また、まとめて売りさばくには、それまでに盗んだものをどこかに隠す必要がある。
まとめて売りさばくのだから盗品は当然増えていく。一度に行うとしても時間、場所、あらゆることが制限されるだろう。だから、少しずつ行われているものとする。
(実際、サティの話によると被害は一度に二・三件ほどらしい)
となると、どこかへ潜伏する必要がある。宿に泊まるとすると、部屋は宿の者が毎日清掃するのだから、徐々に増えていく荷物に気づくだろう。
買い物をしたということにしても、こんな小さな村での商店はたかが知れている。すぐに嘘が露見するだろう。
――と、彼は淡々と語った。
「……君にしてはサエてますね」
見ればレオンが何やら険悪な視線を向けていた。どうやら口に出てしまっていたらしい。
こほん、と咳払いしてサティは口を開く。
「ええと、そうですね。発覚する危険はかなり大きいです。特にこういう小さな村での情報の広がり方はあなどれません」
早い話が「人の口には戸は立てられない」ということである。
サティは組んでいた腕をゆっくりとほどくと、人差し指をぴん、と立てた。
「隠す場所がどうしても必要です。そう。人目につかない所が」
レオンはさらに眉間に皺を寄せ、目の前の無駄に育った木々を見つめる。
「それがここってわけか」
サティは無言で、しかし自信たっぷりとうなずいた。
彼女は目を閉じ、指を立てた姿勢のままあとを続けた。
「午前中、村のお年寄りに聞いて回ったところ……交易所は月に二回、七日間ずつ開かれていたみたいです」
「うん」
「この辺で採れない食べ物も並んだそうですが、ファティマからの生活用品や流行品が主だったとか」
「へえ?」
レオンが感心したような声を漏らす。が、それはあまり気にせず、サティは交易所跡地の上方を見つめて指す。
「ここ、屋根がないのは元からなんですね。でも、夜や天気の悪い時には売り場も商品もきれいさっぱり片付けてあったそうです」
同じように見上げていた彼が片眉を上げた。
「じゃあ、地下に倉庫でもあるってことだな」
「ぴんぽーん」
レオンの返事にサティはぱちぱちと気の抜けた拍手をしてやった。
――彼は半眼で見つめていたが。
気が済むと、再びサティは腕組みする。
「でも、困ったことに倉庫の入り口がどこにあるのか、村の人は知らないみたいなんですよねー」
「…………」
「元々ここはファティマの商会が作ったとか言ってましたし。商品の管理もそっちでやってたみたいですし」
レオンが嘆息混じりに声をあげた。
「それじゃあ、外から入るのは無理なんじゃねえか?」
彼の指摘は全く気にせず、あとを続ける。
「それが、鍵穴自体さっぱりないみたいなので――」
「――どこかにスイッチがあるということか……」
重ねられた声に、サティは思わず目をぱちくりさせた。
が、すぐに気づき、
「レオン君って実はサエてるんですね」
とへらりと笑ったところで殴られた。……グーで。