アルビレオの領分

こうほうはおしごと?

 顔を上げた瞬間、視界が淡紅色に染まる。
 花。
 色鮮やかな見事な枝振りの、大きな八重桜である。
 丸くふんわりとした花は自由闊達に伸びた枝から競うように咲き誇り、天幕のように中庭上方いっぱいに広がっている。
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「なにが?」
 無邪気に聞き返してくる彼に、紗耶は眉を上げた。
「ボーダー規定にも三門市条例にも明記はしていなかったけど、勝手に庭の穴を掘ったりしたら怒られるのでは」
「大丈夫だ問題ない」
 兄は厳かに頷いてみせた。
「お前は少しだけ大きく立派で上等な記憶アルバムを持つとびきり優秀な自慢の妹。その優秀な妹が規定にも条例にもなかったと確認できているのだから問題ない。お前を信じるお兄ちゃんを信じろ」
 みょんみょん。たわむ針金二本を構え、兄がいつになく真剣な顔で言う。今ひとつ説得力に欠ける姿である。
「埋めるのは秋だ。だから、怒られは発生しようがない。何故って今は春だからね」
 母譲りの色素の薄い瞳をじっと見返す。ふわり、と陽にあたためられた風が髪を揺らした。色素の薄い髪もその上を飾る天使の輪も揺れ、周囲に光を散らした。
 妹は首を傾げた。
「いや、それだと秋に怒られが確実に発生するのでは」
「お」
 柊介がこちらの頭越しに何かを見ているのに気づいた。振り返る。と。
「わあ⁉」
 悲鳴をあげ、紗耶は後ずさった――いや、後退しようとしたところを、兄にぶつかった。抱き留められる形で制止されて、ますます混乱が深まるのを自覚する。
 そこにいたのは、根付栄蔵メディア対策室長と彼が案内中の愉快なカメラマンと記者だった。
 としか言いようがない。瞬時に額に青筋を浮かべた根付が叫んだ。

「悲鳴をあげたいのはこちらの方なんだがね!? きみたちは庭で一体何をしているんだ何を!?」

 根付の悲鳴じみた声に紗耶の両肩が跳ね上がった。
 答えずに、兄は白衣のポケットから提げていたアルコール消毒液で手指を丁寧に清め始めた。根付と愉快な仲間たちの目線を気にすることなく、ポケットから四角い缶を取り出した。おもむろに蓋を開け、自身が焼いたクッキーを取り出す。そして、紗耶の口にぞんざいに突っ込んだ。チョコレートとバターのほのかな甘みが広がって、叫び声ごと口内で溶けていった。

「集合!」

 頭から狼煙を上げ続けている根付が叫んだ。カメラマンと記者から少しだけ離れた桜の木の下に移動した彼は、三橋兄妹を呼び寄せた。
 ぱたぱたと白衣の裾を翻す兄の背を追い抜かし、紗耶も室長の元に走った。はらはらと桜の雨が二人に降り注いだ。
「きみたちは一体何をしてるんだね何を!?」
 根付は声を小さく尖らせた。人前で部下を怒鳴りつけない上司は良い上司であると兄が言っていたことを思い出し、紗耶は密かに感心した。青筋は額に大きく浮かんでいるが。 彼は二人を交互に見やり、紗耶の前で視線を一旦止めた。
 紗耶は右手を小さく挙げ、口を開いた。
「タイムカプセルを埋める場所探しです」
「さっぱり分からん!」
 弾かれたように、根付が叫んできた。今度は兄に鋭い視線を向けた。
「秋に妹とチームメイトがタイムカプセルを埋める予定なのでその下見です」
「もっと分からん!」
 が、柊介は心外そうに秀麗な眉を顰めると、かぶりを振った。脇に抱えていたL字型に折り曲げた針金を再び両手それぞれに構え、告げる。
「いやだなあ、根付さん。先客がいたら困るでしょう。そのために下見してたんですよ下見」
「俄然分からん!」
「下見とは、あらかじめみておくこと。まえもってみておくこと。下検分のことですが」
「そこは聞いていないのだが? ああ、もう……三橋柊介くん。そもそもその針金は何なんだね一体……」
 頭上のクエスチョンマークがどんどん増えていく根付に、ちゃ、と兄は左手の針金を掲げた。
「ここほれワイヤーです」
「何?」
紗耶、説明を」
「え? わたし?」
 右手のワイヤーを兄に向けられ、みょんみょん跳ねるそれに紗耶は目を白黒させた。根付も険しい顔つきでこちらを見下ろしてくるので、少女は姿勢を正した。

「隊長が忍田本部長に先日報告を済ませているとのことなので既にご存じかもしれませんが、今年の秋に所属部隊が解散することになりました」
「ああ。本部長から聞いているよ」
 紗耶の所属しているチームは、今年度末に隊長をはじめ、他の隊員も進学や就職、卒業を控えている。そのため、この秋十月に隊を解散することが決定した。半年も前に解散を決めたのもそれを上司に迅速に報告することを判断したのも、隊長であった。しがないB級部隊とはいえ、今後の防衛任務のオーダーに深く関わる事項である。報告・連絡・相談は早いに越したことはないだろう、と。そして、解散への気持ちの整理には長い時間が必要だろうことを隊長は配慮してくれたのだ。次の春に戦闘員として組織に残るのはチーム内では紗耶一人だけであった。解散と向き合う時間はその分必要だろう、と隊長も隊員もチーム最年少隊員の紗耶に心を砕いてくれた。「ランク戦最終シーズンは一花咲かせるぞう!」「うちのデキる迎撃システム三橋ちゃんの売り込みにもなるからな。ド派手な花火でっかく上げようぜ!」「入りたいチームがあったり、隊を立ち上げて引き入れたい子が居たりしたらちゃんと教えてね。皆で交渉の場に着いていくからね」等々、皆、口々に言い、紗耶の頭をわしわし撫で回した。
 中学生の頃からボーダーに入隊していた紗耶を知る先輩方は、その成長もレベルアップも我がことのように喜んでくれたひとたちである。皆、紗耶のことを小さな妹のように大切に可愛がってくれている。敬愛する先輩方との防衛任務もランク戦も数えるほどでおしまいなのだ。
 解散はまだ半年近く先の未来である。それでも寂しい気持ちはひたひた紗耶の身に近づき、じわじわと染みこんできていた。
 ランク戦で一矢報いるため、解散について他のチームには一切情報を伏せていた。けれども、紗耶の兄である三橋柊介はじめ、トリガーや隊服の調整にも携わってくれたエンジニアの皆さんには他のチームには他言しないでいただきたいことをお願いしたうえで、隊長が直々に報告をしてくれていた。一人残る最年少の紗耶のことを配慮してくれていたからなのだろう。寂しさやプレッシャーに紗耶が独りで溺れないよう、紗耶が抱えた荷の重さを兄にもその同僚にも分かち合ってもらえるよう掛け合ってくれたのだ。
 友人にも言えず、幼馴染みにも零せず、なんとも言えない寂しさと焦燥に押しつぶされそうになっていた妹を見かねたのか、兄は明るく誘ってくれたのだ。
「秋に隊の皆とタイムカプセルを埋めようぜ」

 タイムカプセルとは、文明が滅びているかもしれない五〇〇〇年後に開封されることを考えて、一九三九年のニューヨーク万国博覧会で万年筆や鉛筆などの筆記具、眼鏡をはじめとする日用品、紙にして二万三〇〇〇ページ分の情報が納められた極小フィルム等を合金製の容器に入れて埋めたのが始まりとされている。
 そうした高尚な目的ではなく、未来に向けて歩き出した部隊の先輩方との今を、思い出を、形に残そうと兄は提案してくれたのだ。

 三門市で暮らしてきた者は誰もが、あの日――あの大規模侵攻によって何か大切なものを失っている。それまで享受していたごくごく当たり前のありふれた日常が思い出に変わってしまった。日常が手のひらから離れ、思い出に変わる。それが哀しくて、寂しくて、たまらないのだということを、誰もが思い知った。胸に去来する喪失感もやるせなさも言葉にできない色々を抱えたまま誰もが今日を生きている。そして、明日も生きていく。

「さよならだけが人生だって言うけど、分かっていても寂しいよ。それは仕方がない」

 兄は紗耶の隣に座り、頷いた。彼は骨張った手のひらで紗耶の頭をわしわし撫で、つむじを押した。
「解散まであと半年しかない? おいおい。あだな、しっかりしてくれよ。あと半年もあるんだぞ。半年も! それに妹よ、お前は少しだけひとより大きくて立派で素敵なアルバムを持っているじゃないか。その分たくさんあの子たちとの楽しい思い出をアルバムにずうっと大事にしまっていけるだろう? 今生の別れじゃないんだ。いつも何度でもいつでもいつだって取り出せばいいし、あの子たちといつでも分かち合えばいい。何? それでも寂しい? そりゃそうだよ。人生ってそういうもんだ。俺も井伏さんの訳の方が好きだけど、『人生別離足』って言うからさあ。仕方がないよ」
 兄は紗耶にまっすぐ目線を合わせると、にやりと笑った。
「じゃあ、そんなさびしんぼのあだなにお兄様からとびきり素敵に愉快なアドバイスだ――確定した未来を嘆くくらいなら、先回りしてもっと楽しい約束を未来との待ち合わせに組み込んでしまえ」
 そう宣うと、兄は妹に一冊の本を手渡した。

「秋の解散時にタイムカプセルを一緒に埋める楽しみを用意したらどうか、と兄が提案してくれまして。それで、二十二世紀の未来から来た猫型ロボットが活躍するコミック五巻を兄から借りて読みました。その中に収録されている『地底の国探検』に登場するすこしふしぎな道具が『ここほれワイヤー』というわけです」
「トリオン技術でどうこうできる仕組みではなさそうなのと、まだ俺たちには少なくとも一世紀は早い文明のようなので再現はできませんでした。それでコミックに掲載されていた図を参考に針金を二本用意したわけです。ここほれワイヤー試作、みたいな」
 私が作りました、と胸を張り、L字型にした長い針金をみょんみょん振り動かす兄に合いの手が入った。
「懐かしいなあ。ダウジングだっけ。地下に埋まっている物体やら水脈やらを見つけられるって奴」
「うんうん。地下帝国見つけるぞ~ってぼくも弟や友だちぞろぞろ連れて、L字型に曲げた針金ハンガー二本水平に掲げて庭とか公園とか校庭とか散々歩き回ったっけなあ。懐かしい」
「懐かしいよねえ。今度の休みにうちのチビたちと遊んでみようかな。長い方は何センチにするんだっけ?」
「長辺が五〇センチ、短辺が三〇センチです」
 いつの間にか近くに来ていたカメラマンと記者相手に兄が針金を見せびらかしている。
「…………それとタイムカプセルに一体何の関係が」
 険しい顔つきの根付が紗耶に尋ねてきた。
「兄が先ほど申しあげた通り、タイムカプセルを埋める場所の下見です。先客のタイムカプセルがあったらそこに埋めるのは避ける必要があるので。あと、ついでに鉱脈もあるかもしれんから入念な下見が必要だ……と、兄が」
 言葉を勧める毎に根付の眉間の皺が濃く深くなっていくのが見えたので、紗耶の声はどんどん小さくなった。噴火寸前の山に来た気分である。重心を変え、いつでも素早く兄の後ろに回り込めるよう意識した。
三橋紗耶くん。今日の午後二時から何をする約束だったか覚えているかね?」
「広報誌の取材です」

 このたび、きょうだいで活躍している隊員を集め、彼らのインタビューを広報誌に掲載することになったのだ。入隊を迷っている若者やその家族、そして三門市の皆様、スポンサーの皆様に界境防衛機関がいかに安心・安全、健やかな組織であるのかをPRするためだ。
 そのインタビューの当番に本日割り当てられたのが三橋柊介紗耶の兄妹である。隊員や職員の自然な横顔、いつもの組織での振る舞いを掲載するべく、取材場所はボーダーに関するそれぞれきょうだいの好みの場所でと指定があった。三橋兄妹は中庭を選んだのだ。
「……時間前行動は評価するが、午後二時からここで広報の取材だと何度も伝えておいたはずだね?」
 質問の意図を考えていたらまたクッキーを一枚口に突っ込まれた。
「はい。二人で入念な準備をしていました」
 兄が紗耶の肩に手を載せた。
「タイムカプセルを埋める場所の下見をすることがかね?」
 険悪な目つきのまま根付が言う。
「実は」
 柊介は頷くと、手早く紗耶の前に回り込んだ。根付を手で制して、彼は重々しく口を開いた。目を伏せ、かぶりを振ってため息をつく。
 木漏れ日から零れた陽射しが、兄の色素の薄い髪と張りのある頬を照らした。
「実は、タイムカプセルを埋める場所の下見をするついでに地下に埋まった物体がないか確認をしていたのです。戦闘員の妹、緊急時に換装できる根付さんや自分はともかく、取材に来てくださった皆様に何かあっては一大事ですから」
「おお……」
 取材陣の眼が、驚愕に見開かれ――
「我々のことを気遣って……」
「組織の人間として、いえ、ひととして当然のことです」
 兄は頷きながら、カメラマンと記者を見やった。春の陽光が彼の髪を照らし、彼の頷きに従って髪から光が零れた。とりあえずもっともらしく聞こえるような声と姿勢である。
「……繰り返すが、時間前行動は評価する。午後二時からここで広報の取材をすると何度も伝えていたね」
「はい。先ほども聞きました」
「ええと……」
 後ろから紗耶は、なんとなく気まずい思いを抱きながら聞いてみた。
「根付さんと取材の方たちはもっと早く時間前行動をしていらっしゃったということですよね?」
「ん?」
 きょとん、と首を傾げる兄に、根付が真顔で言った。
「つまりだね、見ていたんだよ最初から全部。中庭にきみたち兄妹が来たときには取材の方もわたしも下見で既に来ていたんだから」
「つまり」
三橋柊介くんが針金二本持って庭を何周もスキップしていたのも、『サークル・オブ・ライフ』を高らかに歌いながら穴を掘っていたのも、滲み出す混濁のモンショウ、不遜なるナントカ? を二人でにこにこ唱和してバナナをむしゃむしゃ食べては皮を一旦そこに置いたのも見ていたんだよ我々は」
「な、なんと」
 衝撃に頭を揺らし、兄が苦悩するようにふらり、と大きく傾いた。ご近所でも美しいと評判の兄がそれをすると、薄幸の美青年がショックで倒れ、そのまま風に攫われそうな儚さがあふれ出る。ところがどっこい、打ちひしがれた姿を見せつつ、針金をみょんみょん回しているのでなにもかも台無しである。

「妹の紗耶くんが言うように、中庭の穴を掘る行為が禁止であるかについてだが、ボーダー規定にも三門市条例にも明文化されてはいない。だが、施設内の敷地を管理者の許可なく掘り起こすのはいかがなものか。組織に所属する者として、後輩たちを指導する立場として、ひとりの人間として、行動に移す前にまずは考え、上司に相談することが必要ではないかね」
 紗耶は自分の視界になにやら炎が揺らめいているのを確かに見たと思った。炎というか、煙というか、狼煙というようなものが根付栄蔵メディア対策室長の全身からねじれて立ち上っている。
「きみたち兄妹がそろってむしゃむしゃバナナを食べて、歯磨きをしに行くついでにゴミ袋を用意するまでの間に一旦そこに置いた皮で誰かが滑ったり転んだり尻餅をついたり気まずい思いをしたりしたらどう責任を取るのだね?」
 実に具体的且つ明瞭な真に迫った追及である。記者は、すすすと近寄ってくると、耳打ちするように口元を手で隠し、
「実はね、根付さんがさっき滑りそうになったんだよ」
 こっそり教えてくれた。
「そんなバナナ……」
「そこ! バナナはどうでもよろしい!」
「ひえっ、そんなバナナ」
 紗耶をきっぱりと無視し、根付はますます眉間に皺を深くした。
「ボーダーに所属をしているということは、きみたち一人一人がボーダーの看板を背負っているということを自覚してほしい。施設内に出入りするのは職員や隊員だけではない。今日のように取材に来られる方もいらっしゃれば、普段だって自動販売機の業者の方、スポンサーやトリガー研究で出入りする方々もいるのだよ。いくら施設内だからといって、藪からスティックを拾ってキャッチボールするのは控えてほしい」
 ここほれワイヤー(試作)の針金が開いた先を掘ったところ、鉱脈はなかった。けれども近くの藪にちょうどよい感じの棒があった。拾った棒を、兄と二人でキャッチボールし、あまつさえ紗耶が最も熱中している大人気死神剣戟漫画の破道の九十『黒棺』を練習していた姿までしっかりばっちり全部まるッと目撃されていたらしい。
「根付さん」
「なんだね……」
 いつになく静かなテノールが空気を揺らした。兄は背の後ろに回っていた紗耶をそっと隣に立たせ、深く頷いた。
 根付の切なる言葉に感じ入ったのか、兄の色素の薄い澄んだ瞳の中には、情熱の炎がたっぷりとのぞいていた。
 疑わしげな思いで、紗耶はまばたきをし、横から兄を見上げた。

「訂正してください。妹に拾って投げたのはただのスティックではありません! ナイススティックです」

「どうでもよろしい!」
 根付が文字通り目を三角に吊り上げて怒鳴り込んだ。全身をわなわな震わせた室長は、凄絶なまなざしのまま、こめかみと胃の辺りをさすった。痛むのかもしれない。
「……三橋くん。再三言っているように、きみたち兄妹はもっとパブリックイメージというものを大事にしてくれたまえ。きみたちのパブリックイメージを守ることは、ひいては組織のパブリックイメージを守ることにも繋がるわけで……」
 メディア対策室長は突然言葉を切ると、記者とカメラマンに向き直った。震える指で記者の肩を叩いた。眉も頬も唇も青筋も小刻みに揺れている。
「あの、まだ取材の時間ではないですよね。ボイスレコーダーのスイッチは切っていただけますか? レンズも向けないでいただきたい」
 泡立てたようにふんわりとした栗色の髪を掻きあげて、カメラマンはにっこりと営業スマイルを浮かべた。記者もレコーダーに一切手を触れようとしない。
「いやいや、お気になさらず。毛並みの良い大型犬と小型犬……失礼、顔立ちのいい子たちが飼い主……失礼、叱られてしょんぼりとしている姿って何故だか微笑ましい絵になるなあって」
「いやいやいや! これはボーダーと何も関連がないシーンでしょう! やめましょう!」
 根付は目も頬も声も何もかもが引きつりまくっている。
「そうですね~、キャッチボールする兄妹の絵もダウジングする仲睦まじい二人も撮れたので、こっちを入れましょうか。ダウジングなんて懐かしさと微笑ましさ爆発で一部の層に話題になるし、発行部数が伸びますよ」
「そうでしょうそうでしょう! うちの妹はご覧の通りとても可愛いんですよ。おお、掲載するならこちらがいいと思います。ほら、びっくりするほどご機嫌な小犬っぽい。この間も弧月……ええと、組織が開発した剣を練習していた姿が、ナイススティックを拾った小犬のようだと周囲からも大好評でしてね。あ、クッキー食べます? 撮った写真もっと見せていただけますか」
「お、バナナ味だ。これなんかどうかな? キャッチした瞬間が撮れたんだけど」
 ジャンプした紗耶がナイススティックを右手で捕らえた瞬間と、右後方で根付が斜めに大きく傾いでいる姿が写っている歴史的コラボレーションである。
「そんなバナナ……」
「こら! やめなさい! きみたちはもちろん、私のパブリックイメージも大事にしてくれ頼むから!」
 根付の痛ましい声が中庭一帯を大きく包んだ。


 根付の渾身の制止が入り、三橋柊介紗耶の兄妹インタビューは全部きっちりざっくりばっさりカットされてしまった。掲載されたのは、きょうだいで活躍するエンジニアと戦闘員の簡素な紹介文(根付が書き上げたものだ)と二人で並んで一緒に撮ってもらったスナップ一枚、北添尋や月見蓮、嵐山准はじめ、きょうだいで活躍するボーダー隊員たちとの集合写真だけだ。
 二人のインタビューが掲載されるはずだったページには、代わりに嵐山兄弟妹のインタビュー記事に誌面を割かれた。嵐山隊長ファン待望のスペシャル号である。きょうだい特集号は増刷に増刷を重ねているとの話だ。

「いやあ、嵐山くんはやっぱり凄い。頭の先から爪の先まで嵐山くんが輝ける嵐山くんであるおかげで我々兄妹の(組織での)寿命が延びたよ。これからもいつまでもきょうだい仲良く健やかであってくれ」
 やけにきらきらしい笑顔で焼きたてバナナクッキーを嵐山隊の皆さんに差し入れに行ったのはボーダーのステラおばさん否、三橋柊介で、
「エンジニア募集のインタビューでも痛みを伴う教訓があっただろうが。三橋メジャーには一切喋らせるなとメディア対策室にはきっちり申し送りをしておいたんだが」
 大きくため息をついたのは鬼怒田本吉本部開発室長だった。