アルビレオの領分

サムライ・フロム・カナダ

 大丈夫だ。問題ない。オーケーオーケー。ノープロブレム。無問題。このような場面でとっさに出てしまう言動こそ、その者の品格そのものだと昔の偉いひとも言っていたような気がする。言っていなかったようにも思える。そう。相手を慮ってこそジャパニーズ“いき”すなわち“おもてなし”というものであろう。
 ゆっくりと深呼吸し、頷いた。顔を上げ、視線を引き締め、相手に目線を合わせた。

――カナダ出身のお友だちは初めてだな!

――ほう。お主、なかなかやるではないか。

――またつまらぬものを斬ってしまったな!

 先輩として振る舞うべき正しいリアクションはこれらが妥当だろう。苗字名前は無表情でこちらをじっと見下ろしてきている玉狛支部のエースに、軽く手を振った。
「カナダから来たひとに三枚に下ろされたのは初めて。とても貴重な知見を得ました。太刀川さん始め、いろんな攻撃手の人々に出会い頭に弧月で三枚にも四枚にも下ろされたことがあるけれど、群を抜いて速く鋭く正確な斬れ味でした」
「そうか。だが、おまえたちはどうやらまだ真のカナダ人の実力を知らないようだな」
 玉狛第二の超新星・ヒューストンくんとやらはただ淡々と、ごく当たり前の天気の話でもするように、言ってくるだけだった。身長差の都合上、彼もまたまっすぐこちらを見下ろしてきている。色素の薄い眦に濃い影が落ちている。背も高ければ骨ばった指も長いし、睫毛もとてつもなく長い。

「真のカナダ人の力はこんなものではない」
「うん?」
「真のカナダ人は一太刀で五枚に下ろす」
「ひえ」

 名前は驚愕に眼を見開き、息を止めた。
 前もって重心を変えておいて良かった。今から体重を移動したならば、この真なるカナダ人ヒューストン何某なにがしはそれをこちらの攻撃準備と見て取るに違いない。先週号の『週刊少年ジャンプ』で予習しておいて良かった。

「ヒュース。カナダの治安が一気に悪くなるような言い方はやめようか」
 制止でも命令でもなく、非難でも叱責でもなく、ただ妙な点を指摘するだけといった淡々とした口調で、三雲修がこの奇妙な異文化交流を、なんとか道理の通るように交通整理してくれた。
 善良で真面目そうな眼鏡装備の三雲隊長が言うのだ。おそらく先ほどのテレビショッピングもびっくりのインタレスティングなインフォメーションは、真なるカナディアンジョークとやらだろう。
 とりあえずカナダの往来は無事。オール・ライト。了解。


あとがきなど

ヒューストン呼びは幼馴染み王子くんの影響です。玉狛第二の皆さんが活躍するB級ランク戦に彼女は大学受験を理由に不参加のため、本当に「お噂はかねがね」レベルでの異文化コミュニケーションとなりました。