徐々に奇妙な貢献with荒船隊
ノックのために振り上げた拳はそのまま、叫ぶ。声高に。
「荒船くんこんにちは! 鉄板か鉄板のようなものでできた鞄を貸してください!!」
困ったときの駆け込み寺ならぬ、荒船哲次そのひとは反射的に叫び返した。
「ねえよ!」
苗字名前はふらり、とよろけて後ずさりした。眉間にしわを寄せて、小さくかぶりを振る。そして。ひきつった声で彼女は叫んだ。
「ええっ!?」
「苗字はともかく、なんで穂刈まで一緒にショック受けてるんだよ……」
荒船が目の前で思い切り渋面を作った。視線を振れば、いつのまにか名前の隣にそびえ立つ(今日も元気だ背が高い)穂刈篤も目を見開いており、驚愕満面である。
「持っていないのか? 荒船ともあろう男が……」
「アクション派狙撃手の荒船くんがお持ちでない……⁉ そんな……」
「お持ちでねえよ!」
頭上から大きくがなり返され、名前の体が跳ねた。が、怯む場合ではない。
そのまま半眼になってじっと見上げる。哀しいことに身長の差はいますぐどうこうできないので、代わりに仁王立ちした弓場先輩を心の中にお呼びしてみた。危急存亡の秋なのだ。(心の中の)弓場先輩も「そうだ、そうだ」と仰っている。
「……だいたい何なんだよ。藪から棒に。鉄板でできた鞄って。あったとして何に使う気だ何に」
「…………」
声のトーンを落とした荒船に沈黙する――彼女自身が黙したというよりは、この空間そのものがそれを望んだようにも思えた。静寂の狭間に、時計の秒針の音が聞こえてくる……。おろしたまぶたの縁が、彼の頭にかかっている。
「こらこら。いきなり荒船くんを困らせないの。うちはこのあと防衛任務なのよ。やめなさい。鉄板も鉄板のようなものもないけど、粘土板ならあるよ。貸そうか?」
だいたい何に使うのよ、と加賀美倫がモニターから顔を外し、こちらに声を投げてきた。視線も声音も明らかに呆れている。
息をついてから、名前は頭を下げた。
「倫ちゃんありがとう。粘土板は耐久性が心配なのでお気持ちだけもらっておくね。荒船くんもごめんね。確かな筋の情報だったので大いに期待してしまいました」
「お、おう……確かな筋?」
クエスチョンマークを次から次へと浮かべている荒船はひとまず置いておき、腕時計を確認した。
「誰かと待ち合わせ?」
「ひえ……」
物音立てずに正面に移動した加賀美が、ひょい、と名前の顔を覗き込んできた。
「やだ。そんなにびっくりしないでよ。名前は今日、検査だけだったんでしょう。検査の日に遅くまで道草食うなんて珍しいなって思っただけ」
「う……う……ら」
不思議そうにまばたきをする加賀美に、名前はいっそのこと全部を打ち明けてしまいたくなった。けれども、これは、そう。いわば聖戦である。大事な友人を巻き込むわけにはいかぬのだ。
「う、うらにわにはにわにわとりがいる……!」
「いないでしょ」
「……いないいますいるいるときいればいろ」
「うん? 裏庭?」
「…………」
しばし、沈黙してから――
名前は、ぽん、と手を合わせた。明後日の方向に独りごちる。
「鉄板か鉄板のようなもの製スーツケース――協力者O氏からの確かな情報を手に荒船隊作戦室に現着したものの、夢破れ、期待は打ち砕かれた。新たな勢力によるグローバル且つワールドにワイドで巧妙なる情報操作を前に、わたくし苗字名前の捜査は振り出しに戻り、難航を極めていた……」
「いや、何のナレーションだよ」
冷たく、荒船が言ってくる。ツッコミの気配りを忘れない博愛精神あふれるいいひとである。次のいいひと選手権開催時には絶対に彼を推薦しようと固く誓う。心の中で。
名前はまたかぶりを振ると、気を付けの姿勢を取った。と――
「やはり裏庭か……いつ出発する? 同行する。わたしも」
全員が呼吸を止め、ぴったりとシンクロした動きで視線を送った先には――
「穂刈院」
穂刈篤がいた。
あとがきなど
※荒船隊はこの後きちんと防衛任務に行きました。「徐々に奇妙な貢献」で荒船隊と絡む部分もしっかり書いていたのですが、わちゃわちゃの収拾がつかなくなってカットしました。同学年ズのわちゃわちゃはよい文明ですので忘れた頃に供養を。「倫ちゃんに粘土板借りる」と言っていたのは、弓場先輩に駆け込む前に荒船隊に押しかけていたからです。
幼馴染み兼協力者O氏「映画好きの彼なら持っているかもしれない(持っていないかもしれない)」