箸が転んでも
「玲ちゃんありがとう。とても興味深い作品でした」
借りた映画DVDとささやかなお礼の紅茶ティーバッグを入れた紙袋を掲げてみせる。那須玲はふんわりと微笑んだ。
「いかがでした?」
「……ええと、朽ち果てた廃墟に残された中庭で揺れる白薔薇、おじいさんが生まれた日におじいさんのお父さんが慌てて花屋さんに駆け込んでお祝いに買っていたのと同じ品種のエーデルワイスだったね。大事にされてたんだねえ」
ラストシーンの灰色の世界にまあるく白い花がふわりと揺れていた。静かなのにとても眩しかった。それがとても印象的だった。
ちょっとした悪癖というか、体質というか、目で見た情報に意識を引っ張られがちな名前はいわゆるお洒落なストーリーの洋画を観るのがあまり得意ではない。観るとしたら勧善懲悪モノの分かりやすい作品か、毎年恒例の安心安全設計の大人気国民的少年探偵ミステリーアニメの大長編映画だ。
そういうわけで、今回借りたようなテイストの作品にはどのような感想を抱いて交わすのが正解なのか、正直なところよく分からなかった。
眉をへにゃりと下げたまま那須を見上げれば、少女は白皙の頬を大きく緩ませた。
「ねえ、名前先輩」
「なあに、玲ちゃん」
ふんわりと甘く淡い色の髪を華奢な指で耳に掛けながら、彼女はふふっと笑みを零した。
「最後の中庭、どうやって弾道を引くのが正解なのかな、って考えませんでした?」
やわらかな新緑と夜明け前の空の蒼が淡く溶け合ったような色合いの瞳に悪戯めいた光が宿る。
「ああっ、玲ちゃん。ストップ! それだけはわたしも言わないようにしてたのに!」
わたわたと口元を隠したが、彼女も同じ感想を浮かべていたことが嬉しくて思わず噴き出してしまった。箸が転んでもおかしい年頃の少女二人。軽やかで朗らかな笑い声が昼下がりの空気を揺らした。
あとがきなど
Twitterで那須さんに先輩と呼ばれて微笑まれる小ネタを呟いたところ、フォロワーさんに喜んでいただけ、ハートに火が点いて一気に錬成した掌編その1でした。那須さんに「先輩」と呼ばれる小柄な先輩は良いものだ。