秋深し隣は何をする人ぞ
雲の切れ間から陽光が降り、男の輪郭を淡く縁取った。長い睫毛が瞬きで上下するたび、周囲に光を散らしている。絵になる男である。暇さえあれば開発室に籠もっているこのエンジニアの友人を昼下がりの中庭で目撃するとは極めて珍しい。彼は思わず上空を見上げた。雲一つない快晴である。
「よう、三橋。おまえがこの時間に外に出てるなんて珍しいな」
「…………」
眩しげに瞳を細め、男は黙したまま整った造形の唇の前にこれまた形の良い人差し指を立てた。彼もまたつられて口元に指を立てる。
放っておいても放っておかなくても天気の話題だけで三時間でも六時間でも小粋なトーーク(本人談)を展開できる友人が静かにしているのもまた珍しい。
こちらの沈黙を確認するなり、男が大きく頷いた。所作に従い、秋の陽射しを受けた淡い色合いの髪から光が零れ落ちる。きらきらと。
友人・三橋柊介の隣に立ち、目線を追う。
中学生隊員の巴虎太郎と日浦茜、高校生隊員の三橋紗耶――友人の歳の離れた妹である――がなにやらしゃがみ込んで円陣を作っている。円陣の足元から茶色と白色の縞模様のふさふさふわふわした尾が揺れるのが見えた。巴と三橋妹は日浦の指導に従って猫と遊んでいるらしい。
「東くん。俺は今、訳あって猫ちゃんを愛でる良い子たちを見守る鬼怒田室長を見守る係をしている」
「SNS用の写真撮影するひとを撮影するひとみたいなことしてるなあ……」
「静寂と平和。俺たちが守りたいものだからね」
真剣な顔で告げる友人の対角線上に目を向ける。その木陰には鬼怒田開発室室長がいつになく視線を鋭くさせて少年と少女を見つめていた。けれども、少年と少女が猫の一挙一動に朗らかな笑い声を立てるたび、目元と頬が、好々爺のように緩んでいる。
静寂と平和。それを愛する大人たちの強くなれる理由を垣間見た東春秋もまた頬をやわらかく緩めた。