アルビレオの領分

春、浮き足立つメヌエット

 プリーツを直し、小刻みに震え続ける膝をひとまず隠す。はくはくと口を開いては閉じ、閉じては開く。指先を擦り合わせて組み、結んでは開く。呼吸を止めて十秒。いつになく顔に深刻な影を落とした少女は、ようやく声を発した。固唾を呑んでこちらを見守ってくれている根付栄蔵メディア対策室長をまっすぐと見上げながら。

「あ……ありました」

「あったかね?」
「ありました! 本当にありました!!」
「そうか。三橋くん、おめでとう。今まで本当によく頑張ったね」
「はい! 夢みたいです。まさかわたしが大台一五〇センチに……!」

 瞬時に額に青筋を浮かべた根付が叫んだ。
三橋紗耶くん、合否はどうなったんだね合否は!?」

 根付が文字通り顔から湯気を出した。
 険悪な面持ちの室長をまっすぐ見つめ返し、首を斜めに傾ける。こてん。
 何故か全身をわなわな震わせた室長が凄絶なまなざしで叫んだ。

「きみ、今日は合否発表日だろう!? その報告に来たんじゃないのかね!?」

 左手で作った拳を右の手のひらで打つ。ぽん、と。

「そうでした! あまりにもびっくりしてしまって」
「……きみ、そういうところがお兄さんの柊介くんにそっくりな妹だと実はしょっちゅう言われているんじゃないかね?」
 唐突にエンジニアを務めている兄の話を出され、紗耶はただ瞬きを返した。
「兄ですか? 兄の車で行ったので戻っていますよ。呼びますか? 賑やか係に」
「呼ばんでいい!! 絶対にやめなさいややこしくなる。それより三橋くん、速やかに合否報告をしなさい」
 ここに到着してから三分にも満たない時間しか経過していない。けれども、こめかみを押さえる根付は何故か一気に老け込んだような顔つきをしていた。
 年度末の大人は忙しいのだなあと理解した紗耶は、「三橋、了解」と応えを返す。そして、呼吸をもう一度整え、ゆっくりと唇を開く。勝敗の行方を――