秋の恒例儀式
首の後ろを掻き、彼はげんなりと息を吐いた。浮かれきったものが近づいている。どえらい浮かれよう、否、ハジケぶりである。
「やっほー、紗耶ちゃん」
「その声は! 我が友、ゾエくんと影浦くんではないか!」
のんびり手を挙げる北添尋に、三橋紗耶が走り寄ってきた。結った髪が秋の夕日にぴこぴこ跳ねている。三日ぶりに雨が上がり散歩に出られた犬に似ている。
追いついた三橋は、北添を見上げ人差し指を立てた。ぴん、と。少女はいつになく真剣な眼差しと声音で問う。
「……問おう。汝は今年もすみですか?」
「すみです」
北添の返事に三橋は衝撃を受けたかの如く、大きく頭を振り、後ずさった。結髪がしおしおと落ちていく。
「いいなあ! いいなあ! わたしも早くそちら側に行きたい!」
「おいでよ今年のたしかなまんぞく。真相は己の舌でとくと味わうがよい〜!」
両手を合わせる北添を見上げ、三橋は唸った。
「うう……わたしだって堪能しますし! お兄ちゃんの繁忙期が終われば!」
「うーん、確かに女の子一人だとちょっと入りづらい、カモ……」
北添がこちらの顔を見やり、「今年はサイズがネ」と呟く。携帯端末を取り出し、画面を指でたぷたぷし始めた北添に三橋が吠えた。
「ゾエくんすとっぷ! わたしはなにも聞かなかった! 例年画像比較禁止! ネタバレはやめよう! 影浦くんも答え合わせはご勘弁を! 何卒!!」
「ンだよ。揃いも揃ってテンション高ェな……」
思わず零せば二人は顔を見合わせ、唇を尖らせる。だって、と。そして――
「『かげうら』の月見焼きは、秋の風物詩だから!!」
そのまま笑って宣言した。朗らかで明るく清らかな光を瞳にきらきら躍らせて。
「……毎度ゴヒーキにドーモ」
顔をしかめる。首の後ろが痒いのだ。どデカくどえらく浮かれきった空気が、涼風と共にそわそわそよそよふわふわ首の後ろを擽ってくるので。