床を蹴る音がする――『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 』雑感

床を蹴る音がする。9×18メートルの四角の中で。その強い音が、まだずっと響いている――

『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 』観ました。見届けました。
とてつもなくすごくすごい春高バレーを、観た。

「『ハイキュー!!』をご存じか?」という質問があれば、光速でノーと即答する生涯でした。が、今日をもって、その長き封印が解かれようとしている……。
原作もアニメも耳にしたことはあれど、読んだことも観たこともなかったんです。本当なんです! 信じてください!(?)
ざっくり知っていたのは下記情報です。
回転寿司店やカレーチェーン店でよくコラボなさっているあの『ハイキュー!! 』で 、配信アニメを観た部署メンの子が「中学生になったらバレー部に入るんだ!」とバレーのルールはおろか遊んだこともまだないのに中学入学までまだ何年もあるというのに上手くなるコツをびっしり小さいメモに書いて日夜研究しているという微笑ましくもすごいエピソードを生み出してくれる漫画『ハイキュー!! 』で、『ハイキュー!!』 をご存じのフォロワーさんが皆さん目を輝かせて「あれはよい作品だ」「我らが青春」と語るあの『ハイキュー!! 』だということ。
ざっくりうっすらとしか知らない状況だったのでした。
だが、昨日までの私とは違う! ギュッ!!
原作知識どころかバレーの知識もゼロでしたが、見終えた今、「バレーって楽しいじゃん!!」の種をポケットにいっぱい詰め込んで持ち帰ってきたような心地がします。
すごいものを観た。他校の友だちに誘われて観に行った感すごいんですが、すごくすごかった。すごく熱く濃密な85分だった。観に行って本当に良かったなと思えた85分でした。

……私の頭沸騰した初見雑感では何一つ伝えられるはずがないので、何よりも先に公式サイト様の予告を観てくれ。

この醒めた口調のけんま選手が見せたあの微笑みの意味。そこに至るまでの試合の軌跡。それらを知りたくて、観に行きました。

以下、鑑賞後の新鮮な雑感を残すべく、鑑賞者配布特典冊子もパンフレットも公式サイトの情報も読まずに熱情の熱いリズムにノッたまま書いた雑記です。
選手の名前さえきちんと調べずに綴っています。表記など読みづらいと思いますが、「はじめてのときのきもち、だいじですよ」ということでここはひとつ。ネタバレ含むので一旦畳みます。

▼ ネタバレもある雑感を開く

まず観ていて良いな、と思ったのは、ハラハラもドキドキもいっぱい詰め込まれた85分なのにギスギスするような薄ら寒いストレスがなかったこと。
「試合に勝ちたい」「一点でも多く点を獲りたい」「一秒でも長くこの試合に出たい」といった気持ちはどの選手も抱えているのは当然だと思うのですが、「なんであいつが」「あいつよりも自分の方が」みたいな空気が選手もチームも観客からも一切感じられなくて。
自チームはもちろん、相手チームにも。選手から観客へ、観客から選手にも敬意を払われているというのかな、背中を預け合える信頼感というのかな。
あの85分でもそういう空気が始終保たれているのがたまらなかったです。
この世界で生きる彼らの善性を守りてえ! という気持ちで観客おじさんは胸がいっぱいになったし、震えた……。
井戸水をポンプから手で受けて初めて「water」を知ったときのような心地でした。あの爽やかさ、たまんねーし、最高だった。

85分という限られた尺の中で何を語るべきか/何を語らざるべきかを選択するのってすごく難しいと思うんですよね。
どのエピソードをわかりやすく伝えて、どれを敢えて示さないか。
バレーも原作も知らない観客にも彼らが高く高く跳ぶために床を蹴る音は確かに響いたし、あの試合会場の熱気にもくらくらしました。今もずっと思い出すだけでドキドキしている。
すごいものを本当に観た。

ゴミ捨て場の決戦というのは、箱根駅伝で言う通称山越えとかそういう……?(初見感想並)
そういうアレではなくて、長年の因縁らしい間柄らしいことは、病院にいる師匠と、猫又監督のお話からも関係性からもうっすら感じられましたね。
烏野(からすの) vs 音駒(ねこま) のカラスvsネコ。どちらもゴミ捨て場でも狩りをするもので、俊敏で貪欲で食らいついたら放さない支配者としての比喩なのか。格好良いな!

因縁の相手同士でも合宿で合同練習するんだね⁉ 自分自身はゆるい部活経験しかなかったのでそちらもとても眩しく映りました。キラッキラしてたね。なんだあれ。
この眩しすぎる青春、延長してくれ。頼む。

烏野チームの影山選手(漢字合ってるかな…?)としょうよう選手の得も言われぬ同じパスを繋ぎ合った者同士にしかできない会話もたまらなかったねえ。
しょうよう選手を信じてボールを上げるこの春高バレーまでに一波乱どころか百波乱はあったんだろ? 知ってるぞ。俺は何も知らないけど詳しいんだ(??)

しょうよう選手とけんま選手のまるでタイプの違う二人による、“ライバル”だなんて一言でくくって良いのか分からない関係性も良かったねえ。
互いの知るこれまでと、この瞬間から先のそれからを読んで読んで次の一手を考える。一点でも多く獲る、何点でも相手を削ぐ。
冷め切っていたけんま選手からあの一言を引き出せるしょうよう選手、光の使者ですねわかります。
……バレーって、アルティメットすごすぎる競技。そう思った。

ツッキー選手(平仮名だと月光町のあのフォルムが思い出されるのでカタカナで失礼します)と、クロ選手の同じポジションならではの牽制というか、アオリというか、楽しかったね~。
師弟関係とも違う、ライバルとも言いがたい。得も言われぬよさ、プライスレス。

烏野のベンチの外に居たマネージャーの女の子、不慣れな中でも過緊張の中でも選手たちをまっすぐ信頼して応援しているのたまらなかったなあ。
ベンチの中に居たすらっとした先輩マネージャーも凜として揺らがずにいて格好良かったね。

両チームの応援席。ちからいっぱい応援していた和太鼓の達人おねえさんも、ふわふわツインテールのセーラー服お嬢さんもすらっとした異国情緒あるお姉様も瞳がきらきらしてたね。
熱かった。

幼馴染み同士で。ずっと同じコートを跳んで。ボールを追いかけ続けて。この一回が終わったら引退する三年生のクロ選手と二年生のけんま選手の関係性さあ、嫌う奴いる?
いねえよなあ!!?
劇場版なのであっさりと二人のスターターセットという断片的な情報でしか我々観客席の目には映されなかったので行間の隙間刮目するほかなかったけれど。
おそらくお家で遊ぶ方が大好きだったインドア少年けんまさんを、あの9×18メートルのコートに誘い出したクロさんもすごいし、
その誘いの手をとって以降、内包したバレーに対する熱は異なるものの、同じコートで同じ一つのボールを追いかけ続けたけんまさんもすごいよ。
すごいしか言えない。試合終了時のけんま選手からクロ選手に向けられた一言には涙腺決壊した。二人のことこの映画でしか知らんけど、あの、あの……。
原作やアニメを愛してあの場に駆けつけし皆さんにおかれましては、どえらいことになったのではないかと心配している。隣の席のお姉さんもタオルで目元押さえてた。

終わらないでほしい、一分でも一秒でも長く彼らのボールが繋がってほしい。奇跡の神様がいるのならば、一秒でも一瞬でも延長してくれ。
試合終盤、あの試合会場の観客席にいる彼らと同様に祈るような気持ちで応援している自分がいました。
烏野高校と音駒高校の試合に立ち会えて良かった……。

良かったなあと思えたのは、試合後にクロ選手たちに声を掛けてきたタイショーくんですね。めっちゃ煽りよる……。めっちゃ励ましてくれんじゃん 笑
試合は一度きりしかないということ。負けるからやらないのではない。勝てるからやるわけではない。あの9×18メートルのフィールドに立つ者同士にしか分からない重みと熱さなんだよなあ。
三年生にとって最後。このメンバーで同じボールを繋ぐのはあと一度きり。我々観客も分かってはいるつもりではあったけれど、つもりでしかないんだな、とガツンと殴られましたよね。
タイショーくんの試合にもドラマはたくさんあったんだろうな。それにしても試合の間も試合後もミカちゃんがすげー可愛くて、タイショーくん幸せになれよ! 式には祝電贈るから会場教えてくれよな!! という気持ちでいっぱいです。(?)
クロ選手とヤク選手に声かけた、カイ選手の「終わりだけど三年間一緒で良かった(大意)」には、泣いてしまった。
胸のあたりに迫ってきて、何度も何度も涙が零れ落ちました。
この青春、延長してくれ。頼む。青春の神様。バレーの神様!

▼ 閉じる

原作もアニメも知らない、試合をしている学校も選手の名前も知らない、友だちに誘われて/たまたま試合会場の近くに来たので初めてバレーの試合観戦に来た……というような通りすがりの者でしたけれど、鑑賞を終えて何時間も経った今も胸がずっと熱いし、今日観た試合のことばかり考えています。

何も知らずにこの試合を観てみたいという気持ちが強かったので、初日初演を観に行きました。
平日朝一番なのに劇場は満席で、老若男女いましたよ! 熱い!
原作が始まった頃にきっと彼らと同じ高校生だったのだろうな、というお兄さんお姉さん方が多く見えたのが印象的でしたし、受験がんばれ/おつかれさまシーズン突入自由登校帰りの現役高校三年生であろう制服姿のボーイ&ガールも見ました。制服に赤いジャージを羽織っていた方も観たので、音駒高校生がライブビューイングに来てたようです。
開始直前の明かり消えたときの皆さんの呼吸止めたリズムも、試合終了後の蘇る呼吸音もたまらんかった。85分の一体感すごい。

実はわたくし、映画公開に先駆けて、先日のポイント大還元セールが開催されていた際に「ハイキュー!! 」電子書籍版全巻をイッキ買いしております。
春高バレーで初めて試合を観た彼らの軌跡を知ることで、ゴミ捨て場の決戦で魅せられた彼らの輪郭も影も、より一層濃く感じられるのだろうなと思うとわくわくします。
原作を読み終えてから新たな気持ちでおかわりに挑む『劇場版ハイキュー!! ゴミ捨て場の決戦 』も今からとても楽しみです。その前に目の前の原稿終わらせようねえ。それまで楽しみはしまっちゃおうねえ。

床を蹴る音がする。9×18メートルの四角の中で。その強い音が、ずっと胸の奥で響いている――